娘は、土砂降りの雨を見ながら声を上げて泣いていた
私は黙って、それを見守っていた
慰めの言葉も見つからず、抱きしめて誤魔化すこともできず、ただ、泣きたいだけ泣くしかないと思っていた
それは、末っ子の私が、味わったことのない悲しみだったから
あれは、私の実家の納屋の軒下
娘は2歳半
弟が生まれて、私が退院して、数日後だったか
“新参者”が、揺るぎないと思っていた自分の居場所に入り込んで、一身に浴びていた周囲の視線を奪っていく
それを感じ取りながらも、はっきりと認識できずに、不安定に怒ったり泣いたりする日々だった
周囲の音をかき消すような轟音を立てて降る雨に、思い切り大きな声を出すことを許されたかのように、娘は声を限りに泣き続けた
もう30年も前になるのか…
小さな心は、こんな試練をいくつも乗り越えて、“新参者”たちと助け合いながら大きくなった
今では、頼れる相談相手として、私の知らないことまで話し合っているらしい
娘の子は、1歳半ほどで弟が産まれて“おねえちゃん”になった
いつも2人を同じように、時には上の子を優先するように時間を割く娘の心の中には、ずっとあの土砂降りの雨の日が残っているのかな