父さん、どうする?
母さんは、父さんの願いをすっかり叶えたけど
ここ数年の間に、何度か聞かされた、母の思い出話
嫁いできて間もないある日
その日の仕事を終えて帰ろうとしたとき、父さんが物置小屋の陰で手招きしていた
何かと思って行ってみると、突然抱きしめられた
俺にはもう、お前しかいない
祖父母がいて、舅も姑もいて、亡くなった前妻の子どもまでいる家
子育てを手伝ってもらっていた身内まで、あれこれと理由をつけて去っていった
こんな家に来てくれるのは、きっとお前が最後だ
俺に不満があるなら、いつだって出ていってもいい
でも、家族への不満なら、どうか辛抱してほしい
この言葉を支えに、長い年月を乗り越えてきたという(関連 橋 )
四人の年長者を送り終えたときには、とうに還暦を過ぎていた
一歳から育ててきた姉までも、先に送ることになった( 関連 勝手に使命感 )
母さんは、あの日の約束を全部守ったよ
そんな母さんに、父さんは何をしてあげられるの?
ちゃっかり、自分まで送ってもらっちゃって…
母の思い出話は続く
父さんは、本当に優しかった
穏やかで、考えが深くて、困った人はみんな父さんに相談に来たんだよ
みんなが、父さんを立派な人だって言ってくれて、誇らしかった
父さんをおいて、私が先にいくことにならなくて、本当に良かった
そうか
お返しは、ずいぶん前から、少しずつしてあったんだね