勝手に使命感

同じ空の下母の一世紀

「生きてりゃ、きっと良いことがあるからな」

 父のもとへ、訳あって後妻として入った母に、舅である祖父がそう言ったという

 その日、母は祖父らと一緒に田んぼで農作業をしていた

 長男である伯父は健康上の理由で農家を継げず、代わりに次男である父が継ぐことになったと聞いている

 その伯父が、仕事をしている田んぼに夫妻でやって来て、何やら頼み事を祖父に持ちかけていた

 伯母の服装は、緩やかでスカート丈の長いワンピース  こんなに忙しいときなのに、手伝おうという気はさらさらないと、一目で分かる様子だった

「こんな忙しいときに来るな」

 不機嫌に二人を追い返した後で、祖父が母に言ったのが、冒頭の言葉だった

 あまりにも対照的に、汗と土と埃にまみれて働いている母へ、精一杯の慈しみを込めていたに違いない

「嬉しかったな…」 母は最後に、そうつぶやいた

 祖父らしいなと思う

 ものごとを多角的に見ている人だった

 こんな風に、母はふと思い出したことを話すことが増えた

 夏に帰省する半月ほどの間に、今まで聞いたことのなかった思い出話がぽつりぽつりと出てくる

 それまでの長い間の沈黙を思い、心が揺れる

「生きてりゃ、きっと良いことがあるからな」

 もちろん、良いことはある

 孫やひ孫が遊びに来る

 デジタルアルバムに写真が届き、離れているひ孫の成長も見守ることができる

 それでも、長い沈黙がある

 父は病気のせいで施設に入り、こんな状況下で会えない日が続いている

 血が繋がっておらず、気遣わしいながらも、何だかんだと寄り添いあっていたねえちゃんにも先立たれてしまった

「生きてりゃ、きっと良いことがあるからな」

 大好きだった祖父がそう言ったのなら、それは実現しなければならない

 私の手で (関連 繋がった空の下で