触れないやさしさ
ある日、父が言った
「母さんには、前の旦那のところに残してきた子どもがいて、まだその子のことを気にかけているんだろう もしかしたら、父さんの知らないところで、連絡を取り合っているのかもしれない」
一般的な家庭に見えても、それぞれの事情を抱えているもの
以前から書いてきたように、父が再婚なのは小さい頃に知ることになったのだが、母にもそんな過去があったのか…
隠していたようでもなかったので、私が成人してしばらく経ったこの日まで、触れる必要もなかったのだろう
どんなきっかけだったか忘れたが、そう話した父は寂しそうだった
後に母から聞くことになった
初めの結婚は辛いものだったこと
夫から毎日のように暴力を受けたこと
男の子が生まれたが、連れて出ることができずに、その家に置いてきたこと
そしてその子は、幼いうちに亡くなったと、知らされていたこと
ここに来たときは、抱くこともできない我が子を思いながら、ねえちゃんを育ててきたのかな… 切なさが込み上げる
センチメンタルにそんなことを思っている私とは裏腹に、母はどこか吹っ切れているように、遠い思い出話として話した
あんなに仲がいいのに
毎日、一緒にいたのに
それを話すことなく、過ごしてきたのか
心の奥にある柔らかい部分
そこに触れない父の優しさに守られて、母の痛みは、ぶり返すことなく癒えていったのかな
あるとき思ひ立ちて… (「仁和寺にある法師」を思い浮かべた方 正解です!)
母が歩んできた道をまとめてみようと思いました
北海道の里山に住む、一人のおばあさんの人生に関心を抱かれた方がいらっしゃいましたら、新しい風 から遡りながら、“母の一世紀”というタグのついた文をお読みください