日々のあれこれ母の一世紀

 今朝起きて居間に行ったら、新聞の“自分にとって大切なところ”だけをチェックし終えた母が語り始めた

 ○○さんが亡くなったらしい

 102歳だったんだって

 そこからは思い出話

 父と仲が良くて、良い話し相手だった

 街の方へお嫁に行ってからも、ご主人共々交流があった

 昨年の秋ごろ、母の短期の物忘れが気になり出して然るべき機関を受診した

 処方された薬の効果もきっとあるんだろうけど、こんなふうに父が築いてきた関係に対して礼儀を欠かないようにアンテナを張っていることも、母にとっては大切な予防線なんだろうな

日々のあれこれ

 朝目覚めて、まず家の前の花畑を眺めるルーティン

 その日はそこが“水田”になっていた!

 起きたばかりで、一体何が起こっているのか理解するのに時間がかかった

 どうやら、奥の田んぼの水が溢れて、手前の畑に流れ込んできたらしい

 昨年から植え付けていた芝桜やマツバトウダイ(右手前)

 ビニールハウスの中に植えたトマトやきゅうりの苗

 芽が出揃いつつあったほうれん草をはじめとした葉物野菜、等々…

 頭の中で次々にバツがついていき、遂に真っ白になった

 いっそ泣きたいんだけど、いい年だしそんなことにもならない

 そこへいつもの作業のために甥っ子が到着した

 多分半泣きの顔で畑を指差し、声も出せずに口をパクパクさせている私を見てすぐに全てを察したようだった

 畑になってからずいぶん経っているところなので、水が溜まっても排水する経路がない

 そこで、用水から水を汲み上げるポンプを運んできて、近くの田んぼに流すように道を作ってくれた

 心ここにあらずで過ごした午前中…

 昼近くなったら水が大分引いた

 落ち着いてきたら、「植物だし、このくらいは乗り越えられるんじゃないかな」と思えてきた

 午後は後ろ髪を引かれながら出勤

 近所に住む幼馴染みのお兄ちゃん(60代)が心配して電話をくれた

 夕方近くなって甥っ子からLINEが入った

 写真とともに、「どうやら無事のようだよ」

 近所のお兄ちゃんもこの頃に見に来て「病気がつかなきゃいいけどな」って、ホッとしたように帰って行ったらしい

 一週間経って、芝桜もマツバトウダイも花盛りを迎えた

 今のところは野菜も順調に育っている

雑草まで元気なのは今後の課題として…

 ああ、私は今、強くて優しいものたちに囲まれているんだな

日々のあれこれ母の一世紀

 昨年、山のように生い茂った雑草の中に千本ねぎの株が幾つかあるのを見つけた

 味噌汁の具にするために何度か掘ったが、特に世話をすることもなく秋の終わりには雪の下に埋まっていった

 春になって、周りの雑草よりも早く青々と葉を伸ばし始めたのを見て、ふと「今年は大事にしてみようかな…」と思った

 何十年も前に、それまで勤めていた鉄工所をやっと退職できた父が一念発起し、冬のビニールハウスに電熱線まで敷いて出荷用に栽培し始めたのがこの千本ねぎだった

 米を作るだけでは生活していけない規模の米作農家だった我が家は、父が働きに出て、さらに母が中心となって野菜を作って出荷してやっと生活が成り立っていた

 色々な野菜を手掛けては、そつなくこなしていく母の姿を見ながら、頼まれると断れないタイプの父は、定年を過ぎてもなかなか退職できず、農業だけに専念できる日をずいぶん待ち焦がれていたようだった

 一時は大きな収入源になっていたねぎ栽培も、二人の体力の低下とともに断念せざるを得なくなった

 夏場に株を育てていた畑に残って野生化していたものも、年々掘り起こされては別の野菜が植えられていくうちになくなっていった

 ある年、田畑を引き継いだ甥っ子が昔の懐かしさもあって、それらの“残党”を移植したらしい

 でも、その後は手が回らずに、数年間雑草の中で耐え忍ばせる羽目に…

 やっと陽の目をみることになった千本ねぎたちは、久しぶりに株分けされて各所に植えられた

 その一部などは、かつての栄光を取り戻すかのようにビニールハウスの中に鎮座させることにした

 ねぎが苦手な母は、「どうしてそんなにねぎばっかり…」と、不満そうにしている

 「じいちゃんが大事にしていたねぎだからだよ」と言うと少し納得するものの、数日後にはまた苦情を訴えて来るんだろうな…