今どきの昔話

子どもたちのこと2004年エッセイ集より

 湯船から、長男の声がした。

「むかーし、むかし。桃が流れてきました。」

 私は洗い場で髪を洗っていた。シャンプーが目にしみるのを気にしながら、薄目を開けて声のした方を見ると、ちょうど目の高さを桃が流れて行く…。しかも、二つ…。大きい桃と、小さい桃が左から右へと…。

 唖然としながら見とれていると、桃は湯船の右端で次々に沈み、ざばぁーっと二人の息子の笑顔が現れた。

 思わず拍手。迫真の演技だった。しかも、積み重なった疲れをも癒す大サービスではないか!

 もちろん、個性溢れる長男のアイデアで、二人はこっそり練習していたそうだった。


 それから間もなく、長男は一人でお風呂に入るようになってしまった。何やら、思うところがあったらしい。

 末の息子とお風呂に入っても、桃はまず流れて来ない。照れ屋さんにはちょっと荷が重いようだ。

 では次の桃は、孫ができるまで待たなくてはいけないということか。もしも、おばあさんになってから待ちに待った桃が流れてきたら、お約束通り「拾って持って帰って」しまいそうだ…。

エッセイ集「これはきっとあなたの記憶」(2004年)より
                  *加筆しました


こちらもどうぞ

お母さんの本気

 またしても雪景色の画像から更新が途絶えちゃった…  北海道は春爛漫…というか、 ...

立夏

 二十四節気の立夏だった昨日は 予報どおりのこんな光景から始まった  そしてまた ...

やっぱり甘くない!

 朝から天気予報アプリをちょくちょく確認している  手堅い予報らしく、まったく変 ...

轟音

 ここ数日、頭上の轟音が気になって落ち着かない  スッキリと晴れ渡った青空に…ヘ ...

こちら側

 こちら側って、どちら側?  私の独断によって隔てられた壁のこちら側  借りたも ...