ねえちゃんが泣いたのは
前をすぐ上の姉が歩いていた。私はそのランドセルに顔を押しつけたままつかまり、泣きながらついて歩いていた。吹き荒れる風で、涙も鼻水も雪と混ざり合って顔に凍りつき、冷たさと痛さ、そして不安で涙が止まらなかった。
ランドセルの向こうから、すぐ上の姉の大きな泣き声が聞こえていた。三人の中で一番泣き虫だった姉もきっと、ねえちゃんのランドセルに同じ格好でつかまり、やはりぐしょ濡れの顔で泣いていたのだろう。
さらに遠くから、ねえちゃんの声が聞こえていた。先頭に立って、妹たちを励ましていたのだろうが、その声は風雪に遮られて私のところまではっきりとは届かなかった。右も左も、上も下も真っ白で、見えるのは目の前の赤いランドセルだけだった。
学校までは1キロメートルほど。水田地帯の通学路は、風が吹くと吹きさらしになった。中でも半ば辺りにある坂道では、吹雪に地吹雪が加わって何も見えなくなることがよくあった。前が見えず立ち往生していると、あっという間に足をとられるほどの雪が積もった。
思うように歩けないもどかしさ。それでも小さな行列が進み続けていたのは、ねえちゃんが目を凝らして前を見据え、平らな雪原に足跡をつけてくれたからだった。
とても長く感じられた時間の末に、ふとどこからか別の声が聞こえたような気がした。次の瞬間、先頭にいたねえちゃんが、来た道を戻って駆け出したのを見た。目で追って振り返ると、そこには母がいた。そして、母に抱きついて「わぁーっ」と泣き出すねえちゃんが…。
母は、吹雪の中に三人を送り出した後、時間を追うごとに激しさを増す風雪に、心配になって様子を見に来てくれたのだった。
後ろで二人の妹たちが泣いている。でも、ねえちゃんは泣かなかった。
目の前は一面真っ白で、風と雪が容赦なく吹き付ける。それでもねえちゃんは泣かなかった。
道がどこなのかも分からなくなった雪原を、自分の責任で進まなければならない。ねえちゃんに泣いている暇などなかった。
ねえちゃんがやっと泣けたのは、「よくがんばったね」と、頭を撫ででくれる人の腕の中で、募っていた思いは止めどなく溢れていた。
「あのときは本当に、様子を見に行って良かったよ。」
母は今でもときどき、あの日の思い出話をする。
エッセイ集「これはきっとあなたの記憶」(2004年)より
*加筆しました
来月、ねえちゃんの一周忌を迎えます。
長い間離れて住んでいたので、実感する瞬間は少ないようにも感じますが、心の道しるべを一つ無くした気がして、無性に心細くなるときがあります。